サイエンス漢方処方セミナー Ⅱ-12 便通異常症、サルコペニア・フレイル、アレルギー、睡眠障害|2024年8月4日(日)【第796回】
■井齋偉矢 先生(サイエンス漢方研究会 理事長, 日高徳州会病院 院長)
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【セミナー概要】
漢方薬を診療に使いたい医師は多いのであるが、実際に使おうとしたときには、 サイエンスに基づかない理解しにくい古典的運用法がネックとなる。歴史的にみると試行錯誤で出来上がった漢方薬が先で、古典的運用法は後付けに過ぎない。古典的運用法によらないで漢方薬を処方することを邪道と非難し認めない漢方の専門家も多い。しかし漢方薬は最近の研究で、薬理学が従来想定していなかった、超多成分の全く新しいタイプの薬剤であると考えないと、漢方薬を服用したあとに患者の中で起こることを説明できないことが明らかになりつつある。これを踏まえて、今回の医療技術セミナー(シリーズⅡ-1~9)では、サイエンス漢方処方という新しい切り口で漢方薬を認識し、新しい運用法によって全ての医師が漢方薬を的確に処方できるようにしたい。 皆さま、奮ってご参加ください。
慢性下痢症ガイドラインでは、「桂枝加芍薬湯と半夏瀉心湯には下痢型IBSに対して有意の改善効果があったという 報告があり、漢方薬が有効である可能性はある」とあり、慢性便秘症ガイドラインでは、「慢性便秘症の治療薬として一部の漢方薬は有効である」と記載されている。今回は、さらに多くの有効である可能性のある漢方薬について述べる。
11:00-11:55 サルコペニア・フレイルガイドライン2019における漢方薬の役割
「サルコペニア診療実践ガイド」「フレイル診療ガイド」を参考にして、特に高齢者の諸問題対策に 有用な漢方薬を紹介する。例えば、「腰痛/筋肉痛/神経痛」が適応症の漢方薬のラインアップは、 八味丸(八味地黄丸)、桂枝加(苓)朮附湯、薏苡仁湯、疎経活血湯、五積散、麻杏薏甘湯、牛車腎 気丸、苓姜朮甘湯である。また「疲労倦怠」が適応症の場合は、十全大補湯、小建中湯、人参養栄 湯、清暑益気湯となる。
12:30-13:25 アレルギー総合ガイドライン2022における漢方薬の役割
アレルギー総合ガイドライン2022のうち、成人喘息、小児喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜疾患、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、食物アレルギーを取り上げ、適応のある漢方薬を紹介する。例えば、気管支喘息に適応のある漢方薬は、小柴胡湯、小青竜湯、麻黄湯、麦門冬湯、麻杏甘石湯、神秘湯、五虎湯、柴朴湯、苓甘姜味辛夏仁湯がある。
13:30-14:25 睡眠障害ガイドライン2019における漢方薬の役割
「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」を参考にして、不眠(症)が適応の漢方薬についてその使い 方を詳説する。漢方薬のラインアップは、大柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯、黄連解毒湯、半夏厚朴湯、 抑肝散、帰脾湯、抑肝散加陳皮半夏、酸棗仁湯、温経湯、加味帰脾湯である。実際の症例に関し ては、大塚敬節先生著の「漢方診療三十年」から適当な症例報告を抜粋した。
セミナー要綱
セミナーNO. | 796 |
開催日 | 2024年8月4日(日) 10:00~15:00 ※開場 9:30 |
講師 | 井齋偉矢 先生(サイエンス漢方研究会 理事長, 日高徳州会病院 院長) |
診療科目 | 消化器・一般外科、肝臓移植外科 |
価格 | 5500円(会員価格/税込) |
終了したセミナーの報告と開催の模様
■ 8月4日(日)に開催しました第796回医療技術セミナー『サイエンス漢方処方セミナーⅡ-12 西洋医学に基づく各領域の診療ガイドラインを中心に漢方流に解説 便通異常症、アレルギー、睡眠障害、サルコペニア・フレイル-漢方薬の作用機序を数理で解明;東洋医学とは本質的に異なってくる新たな運用法』は盛会裡に終了しました。講師には、日高徳州会病院 院長、サイエンス漢方処方研究会 理事長であります井齋偉矢先生をお招きしました。2019年4月から始まったこのシリーズも今回で14回目を迎えました。このシリーズの始まりは、まず身近でめぼしいテーマをピックアップして作ったシリーズⅠが2回(#547;漢方処方概論、速効性の漢方、多愁訴の漢方、#563;かぜ・インフルエンザ、老年症候群、common disease)開催した後に本格的に取り組んで、途中からは「お悩みに答えて」シリーズを加えて開催してきた分がこれまで全部で11回分(#609、#614、#622、#651、#664、#682、#692、#702、#722、#753、#761)です。一方で、井齋先生が独自に提唱されている「新 サイエンス漢方」シリーズが、4編が新たに追加され、この4編で一回分のセミナーの開催する運びの成りました(これまでに54編まで執筆を終了されており、だいたい一通りの取り上げが済んだ・・・という状況ですが、まだまだ続けていただけそうです)。
通算14回目にあたる今回は、世に各領域であまた存在する「診療ガイドライン」は 全てが、いわば“西洋医学”を軸にした薬剤処方ですが、これに対して色々な“診療ガイドライン”ごとの漢方流の処方を取り上げていく、漢方流処方シリーズの最新弾としては、「便通異常症」、「アレルギー」、「睡眠障害」と「サルコペニア・フレイル」。ともにcommon diseaseです。
今回のサイエンス漢方処方Ⅱ-12の講義の組立ては以下の通りでした
(51)便通異常症」の診療ガイドライン2023における漢方薬の役割
・慢性下痢症:弁形状が軟便あるいは水様便、かつ排便回数が増加する状態。期間は4週間以上持続または反復する下痢のために日常生活に様々な支障を来した病態。
① 薬剤性 ②食物起因性 ③症候性(全身疾患性) ④感染性 ⑤器質性(炎症性や腫瘍性)
⑥ 胆汁酸性 ⑦機能性 ⑧下痢型過敏性腸症候群(下痢型IBS)
・慢性便秘症:「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・排便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度の怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義される。慢性便秘症とは慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも様々な支障をきたしうる病態」と提議される。
(52)アレルギー」の総合ガイドライン2022における漢方薬の役割
アレルギー総合ガイドライン2022には14項目にわたって章立てされている。が、特に下記の項目で解説があり、漢方処方の詳細について解説が行われた。
成人喘息 小児喘息 アレルギー性鼻炎 アトピー性皮膚炎 慢性蕁麻疹
(53)睡眠障害の対応と治療」のガイドライン2019における漢方薬の役割
病型分類
入眠障害が主訴:慢性あるいは短期不眠症害
入眠障害が主訴:せん妄やSASが疑われる場合
中途覚醒あるいは早期覚醒が主訴:慢性あるいは短期不眠障害
中途覚醒あるいは早期覚醒が主訴:せん妄やSASが疑われる場合
入眠困難および睡眠維持障害が主訴:慢性あるいは短期不眠症害
毎日リズム障害による入眠障害や早朝覚醒:睡眠相前進による早期覚醒
毎日リズム障害による入眠障害や早朝覚醒:覚醒相後退による入眠困難
(54)フレイル(Frailty;虚弱・陶酔→ここでは体力低下)診療ガイドライン2018年版ならびに(54)サルコベニア(加齢による筋肉量の減少→ここでは疲労倦怠)診療実践ガイド2019」における漢方薬の役割
「体力低下」に使用できる漢方薬
「疲労倦怠」が適応症の漢方薬
以上の多岐にわたる漢方処方の解説を、『漢方診療三十年』(大塚敬節著)や,時に『漢方主要処方解説』(矢藪道明先生著)、『新古方薬囊』(荒木性次著)等にも立ち戻りつつ、適応の漢方薬についての解説が行われました。
質疑では以下の質疑が行われましたが、ここでは一部の質問のみを記し、回答を希望される方、興味ある方はDVDないし動画をお買い求めいただきまして、ご確認下さい。
Q1.腹部膨満感と下剤についてですが、講義の中で教えていただいた「桂枝加芍薬大黄湯」の使い方について、解説をお願いします。 Q2.便秘の場合、「麻子仁丸」、「桂枝加芍薬大黄湯」について使いかtについて解説して下さい。 Q3.皮膚の乾燥、特に結構頑固な乾燥の場合、「六味丸」はいかがでしょうか? Q4.「温清飲」についての解説をお願いします。 Q5.「四物湯」についての使い方はいかがでしょうか? Q6.「52よく(草冠に意)い(草冠に以)仁湯」はハトムギの要素を主原料に作られているということですが、その説明と使い方はいかがでしょうか?
■井齋偉矢 先生(サイエンス漢方研究会 理事長, 日高徳州会病院 院長)
<略歴>
92 年 千葉大学第三内科研修医
94 年 国立循環器病センター心臓血管内科 レジデント
98 年 国立循環器病センター心臓血管内科 医員
05 年 国立循環器病センター再生医療部 部長
06 年 米国タフツ大学 Cardiovascular Center 留学
06 年 大阪大学大学院医学系研 究科招聘教授 併任
08 年 ながや内科循環器内科・呼吸器内科 院長
22 年 芝浦メディカル 開院